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【2024/05/09 02:49 】 |
姉の一日
ピーッ、ピーッ、ピーッ!耳装着式の目覚しタイマーからアラーム音が鳴り響いた。

「…うー」

むくり、と身を起こす。眠気を何とかするのに、数分だけを自分に許す。そして数分後、ぶんぶんと頭を振って布団を跳ね除けた。早朝の空気はまだ少し涼しめで、離れて行く布団のぬくもりが悲しかった。

「んっ…」

冷たい水で顔を洗い、パジャマから着替えてまず台所に。

冷蔵庫には、昨夜のハンバーグの残りの挽肉がある。昨夜の時点でスパイスは振り込んであるから、あとは塩を加えて…皮をむいたじゃが芋をざくっと切って、それとフライパンでさっと炒めあわせて。後は少々のスープ…これも昨夜の残りだ…を入れたらすぐ蓋をしめて蒸し焼きでお手軽に火を通す。そして、仕切りとホイルで区切ったお弁当箱の中に、これも昨夜ご飯と一緒に作っておいた人参の蜂蜜いりグラッセや生野菜と一緒に詰めて、それから小さなオムレツも。最後に、混ぜて冷蔵庫に入れておいたガレットの生地を次々薄焼きして詰め込んで、三人分のお弁当の出来上がり。ちょっと仕込みをしておくだけで、驚くほど早く済む。

次はそろそろ弟達を起しに行って、パンを焼いて、バターとジャム、チーズにベーコン、野菜をそろえて朝ごはん。後片付けまで済ませたら、余裕をもって登校開始。まず弟達を幼稚園と小学校まで送ってから…オリヴィエの方は最近恥ずかしいのか遠慮するようになって来たけれど流石にまだまだ…来た道を戻って学園へ。

朝から放課後までは真面目に授業。勉強をするのは好き、知らなかった事がどんどん見えるようになるから。でも、眠さを我慢するのがいつも大変。いつも夜明け近くまで寝付けない分のつけがここで一気に来る。だから、どうにかお昼を済ませた後は、友達とおしゃべりしたいのを我慢して、外の日向で目覚しを装着して寝る。ここで少しでも睡眠をとっておかないと後が…ああ、春のぽかぽか陽気がたまらない。フランスとは全然陽射しの色合いが違うけれど、日本の風土もけっこう好き…すー…。

放課後になったら、クラブに少し寄った後はまっすぐ帰宅。途中で弟達を迎えに行って、それから夕食のお買物。お店によって得意分野があるから、お肉はここ、お野菜はここ、お魚はここ、って感じにあちこち回るようにしてる。後は、市民農園の販売所も強い味方ね。お買物の途中は近所のお母さん達とよく会う。今ではすっかり馴染んで色々教えてもらえるようになった。特に、食事の献立がすごく広がる。ママの後ろで見ててある程度は覚えてたけど、日本料理はもちろん全然知らなかったしね。ブルターニュで使う食材が何もかもこっちで手に入るわけじゃなし、あっちのレパートリーだけだととても苦労するの。

お母さん達と少し立ち話したら、後はお家でお夕食の支度…あ、フラヴィ!一人でどっか行っちゃ駄目!オリヴィエだけじゃあの子抑えておくのは中々難しいのよね…もっとも、最近じゃお母さん達が相手をして可愛がってくれるから、だいぶ落ち着いて立ち話していられるようになったけど。

夕食の支度は、下準備をまとめてさっさとしておくとすごく楽になる。お米の用意をしたり、魚に水抜きの塩をしたり、野菜を下味に漬け込んだり、魚のソースを大雑把に作ったり。何もご飯前に全部の支度をいっぺんにする必要なんかない。

それに、時間を作ってしておかないといけない事もある。まずは、オリヴィエとフラヴィにフランス語とブルトン語のお勉強。毎日一時間は義務づけてる、いくら日本に住んでるからって言っても私達の血を忘れてしまいたくはないから。もっとも、私もしょせんまだ10歳。学校教育を通して正式に学んだってわけじゃないし、教えると言うより一緒に勉強する感じかな。

それが終わったら…そろそろ危ない時間だから自分の部屋にしばらく篭る。いつもだいたい一時間位はかかっちゃうけど…その内、乗り越えられたらいいな。

…汗をよく拭いて、顔を洗って、血の気が戻るまで待って。そしたら、弟達の様子を確認。この一時間が終わった後は、いつも何をしてるか心配になって…。よかった、オリヴィエがトランプでフラヴィの相手をしてくれてたみたい。本当にいい弟…無理、させてないといいんだけど。

ご飯の仕上げをしていると、フラヴィがいつの間にかとことこ私の足元にくっついて来てる。いつものこと。危ないから台所から出なさい、とは言わない。私もママを見て色々覚えたんだから。でも、台所にいたかったら椅子の上でおとなしくしている事…それだけは約束させてあった。ドレッシングとお野菜を混ぜたり、食器を少し運ばせたりはやらせてあげるようにしてる。何もやらせないのはかえって教育によくないし…それに、退屈させたらまた足元にくっつかれてお料理がしづらい事この上なくなるから。甘えんぼなのよねー、この子。可愛いんだけど。

今日のお夕食は、白米、ほろほろに柔らかなサーモンのトマトと黒オリーブのソース(…これは瓶詰め)煮、オリーブオイルたっぷりでとろける焼きナス、ドレッシングに少し漬けて馴染ませた生野菜と温野菜のサラダ。見た目はなかなか豪華。味のほうも少しはマシになってきていると思う。見よう見まねだから、最初のうちはなかなかひどいもので…ね。

二人に今日何があったか聞きながら、ゆっくりお食事。二人とも、こっちの子供達とはうまくやれてるのかしら。そうだといいんだけど。視線からすると、たぶんそんなに隠してるような事はないと思うんだけど…私が心配し過ぎな所もありそうね、はぁ…。

お食事が済んだら、食器洗いと台所のお掃除はオリヴィエにお任せ。最近、自分からそうしたいって言い出してくれたから…。そして、私は学校の予習を少々。片手間に隣でじーっと覗き込んでるフラヴィの相手をしながらになる事がほとんどだけど、まあそんなに気は散らないで済むかな。慣れてるから。それも終わったら、夜10時までは自由時間。それが過ぎたら弟達は容赦なく寝かしつけるの。この時間を繕い物にあてないといけない時もあるけど…幸い、今日は服を破いたりはしてないみたいね。いい事だわ、余計な出費は出来るだけ控えたいもの。

それじゃ、今夜はもうちょっと弟達の相手をしてあげ…あ、まずい…いきなりがくっと来た…やっぱり寝不足なのよね…ダメねこれ…あ、でもこれなら嫌な夢も…くぅ。

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「…姉さん…あんまり無理しないでくれよ」

机に突っ伏して寝息を立てている姉に、オリヴィエがふわりと毛布をかける。だらんと机から落ちた手を、フラヴィがきゅっと握る。起こすなよ、とオリヴィエが言いかけたその時…フラヴィの小さな手が、きゅっと握り返された。やや浅い寝息を深く安らかにしながら…そう、眠ったままだった…リュシールは無邪気に微笑んでいた。フラヴィはきょとんとし、それからにこっと笑ってそのまま姉の隣にぽすんと座りこむ。オリヴィエは、そんな二人の姿を見て、ほっとしたように表情を緩めていた。













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【2013/04/11 12:14 】 | SS | 有り難いご意見(0)
7時の鐘
夜7時…この時間が、私は大嫌い。あの時、その時間の鐘が鳴り続けていたから。ここからは夜が来る…怖い夜が。また、太陽の遠い時間が始まる。

「…っ」

来た。身体が硬直する…もう音の鳴る時計は置いていないのに、身体が勝手に時間を思い出す。パパが、ママが、おじいちゃんが、おばあちゃんが、おじさんが、おばさんが。皆いなくなってしまったあの日のあの時間に、まず身体が放り出される。そして、真っ白だった心も遅れて投げ込まれる。私の全部はばらばらにされて、拾い集めるまで身動きも取れず言葉も出せずにそうしているしかない。

あらかじめ部屋に鍵をかけて座り込んでいるから、最初の頃のように倒れたり誰かに見られて慌てさせたりはしないで済む。それに、最近は少しだけ意識を残して考える事が出来るようになってきた…少しずつ慣れて来てるんだとは思う。そうでなくちゃいけない、いつまでもこんなじゃ弟達の面倒なんて見れやしないんだから。

…でも。あの夜の顔に塗り潰されて、パパとママのちゃんとした顔がまだ思い出せない。このまま慣れきってしまったら…あの時のひどい顔を忘れたら、思い出せないままの顔まで一緒に連れてかれそうな気がして、怖くてたまらない。

みんなはどんな顔で笑ってたっけ…絶対に思い出さなくちゃいけない、いつか忘れちゃう前に。
【2013/01/30 22:02 】 | SS | 有り難いご意見(0)
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